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PHASE 20 「灰色の少年」

 サキが見上げる先には、ブルシェアの文字が見えた。中世風の吊し看板を思わせる洒落た看板だったが、「ブル」で切り裂かれたように途切れていた。

 下を見ると、足元に「シェア」の部分が転がっていた。

 サキは改めてその先に続く街並みを見上げた。しかし、大半は壁が崩れ落ち、道には荒れ果てたように残骸が散らばっていた。むろん、その街並みの中に人らしき影は一つもなかった。

「どうなってるのよ、これ・・・」

 サキは呆然としながらも、ゆっくりとブルシェアの街に足を踏み入れた。道端に落ちていた誰かの腕飾りを拾い上げ、サキはその荒れ果てた街並みをゆっくりと見まわした。

 あの時の地震だけで、これほどの被害が出るとは考えられなかった。この破壊の仕方は、明らかに人為的なもののように思えた。この街でも、シュールやリーンのように、何かしらの騒動があったことは明白だった。

 しかし、人気を感じないところ見ると、すでにこの街には人は残っていないように思えた。リーンと同じように、ここもナイジェルに破壊されてしまったのかも知れないとサキは思った。

 サキはあの時のナイジェルとの戦いを思い出すだけで、身の毛がよだつ思いがした。あの男なら、これくらいのことは簡単にしてしまうかも知れない。サキはそう思った。あの男には、感情というものが一欠片も感じられなかったのだ。

 しかし、その反面で、サキはナイジェルに異様な違和感を抱いていた。それが何なのかサキは分かっていたが、気持ちとしてそれを認めることができずにいた。

 サキは、ギドを助けるためにナイジェルの前に走り込んだとき、深く顔を覆い被したフードの奥に、一瞬だけナイジェルの素顔を見た。

 他人の空似であるだけだと、サキには分かっていた。それでも、それは深くサキの記憶に残っていた。

 ナイジェルの眼差しは、死んだ兄そのものだったのだ。兄もときどきあんな無表情な眼差しで、何か考え事をしていることがあった。

「とりあえず、薬を探さなきゃ」

 サキはナイジェルの妄想を頭から振り払うようにそう呟き、瓦礫の中を進んだ。

 建物は、それがかつて何であったか分からないほどに崩れていた。サキは仕方なく中を覗き込みながら1件1件薬屋を探した。

「もう!これじゃ埒が明かないわよ!」

 サキは苛々しながらも、他に術もなく建物の間を歩き回った。肩に顔を出すフェレに向かってぶつぶつと文句を言いながらも、必死に薬屋を探して歩いた。

「あ!あったよ、フェレ!」

 ようやく薬屋らしき建物を探し当てると、サキは嬉しそうにそう叫んで、建物の中へと入った。部屋の中もかなり荒れていたが、その中でも使えそうなものをサキは片っ端から物色してまわった。

「なんか泥棒みたいだけど、この場合仕方ないよね」

 一通り必要なものをかき集めると、サキはそれをその場にあったバッグの中に敷き詰めて肩に背負った。

「よし!次は食堂に行くよ、フェレ!ここのところひもじい生活だったからね!」

 サキは元気よく薬屋を飛び出すと、すぐに食堂を探し始めた。あまりにも腹が欲していたためか、食堂はすぐに見つかった。

 食堂も無惨な姿に荒れ果てていたものの、建物の中にはまだかなりの量の食料が残っているようだった。サキはとりあえずそのまますぐに食べられそうなものを探し出し、フェレと分け合って久しぶりに腹がふくれるまで食べ続けた。

「ギドたちにも持って帰ってあげなくちゃね」

 サキは保存の利きそうな食料を集めると、先ほどと同じようにバッグの中に入るだけ詰め込んだ。

 サキは大きく膨らんだバッグを背中に抱え食堂を出て、改めて荒れ果てた街並みに目を向けた。

「リナはこの街を目指してたんだよね。でも、こんなになっちゃって・・・。リナ、がっかりするかな・・・」

 サキはそう呟きながら街並みを見渡した。

「この街に何があるのかな・・・」

 サキは街の中心部に向かって歩き出した。彼女が何を目的にこの街を目指したのかは分からなかったが、何かしら彼女に伝えられることがあれば、それに越したことはないと思った。

 街の被害は、中心部に向かうほど酷くなっているように見えた。細かい争いが生じたと言うよりは、竜巻か何かで街の中心から一気に破壊されたように感じた。サキはその中心部へと向かって、辺りを確認しながら歩いた。

 街に人の姿がないことも気になった。これだけの被害が出たのなら、怪我をした人達がいてもおかしくないと思えたが、やはり人の気配はまったくなかった。まるで跡形もなく消滅してしまったみたいに、人影が一つもないのは異様としか言いようがなかった。

 街の中心部らしき場所に出ると、地面が剥ぎ取られたような傷が小さな像を中心に円状に広がっていた。サキはその凄まじさに呆気にとられながら、中心に向かって歩いていた。

「何もない・・・わね」

 サキは辺りを見渡し、残念そうにそう呟いた。恐らく、ここにはリナが求めるものはないような気がした。すべて、何者かによって破壊し尽くされてしまったのだ。

「お姉さん、だれ?」

 サキはその言葉に身じろぎながら振り向いた。まさか、誰かが側にいるとは思いもよらず、おかげで瓦礫に足を取られてその場に尻もちを付いてしまった。どこにも人気などなかったのに、誰が声を掛けてきたのかと不審に思いながら、声の主を探した。

「どこを見てるの?ここだよ」

 中心の台座に腰掛けた少年がそう言った。サキが像だと思っていたものは、灰色の服を着た少年だったのだ。少年は、冷ややかな眼差しで先を見つめていた。

「び、びっくりするじゃない!それより君、こんな所で何してるの?」

 サキは立ち上がりながら少年にそう尋ねた。少年は相変わらず台座の上に座ったまま、サキを見下ろしていた。

「うーん。・・・待ってるんだ」

「待ってるって、迷子になっちゃったの?」

「迷子じゃないよ」

「じゃあ、誰を待ってるの?」

「・・・強い人」

 少年はつまらなそうにそっぽを向くと、興味がなさそうにそう言った。サキは少年の言っている意味が分からず、何を考えているのか伺うように少年を見上げていた。

「ねえ、この街はどうしちゃったの?何で誰もいないの?」

「この街にはいなかったんだ」

 少年は答えた。

「え?誰が?」

 サキは意味が分からずそう聞き返した。

「だから、強い人だよ」

 少年は面倒くさそうにサキを見てそう言った。

「この街の人、弱いやつばっかりだったからさ。そのくせ、うるさい奴らばかりでさ。なんか勝手に目の前で争い始めるし、面倒くさかったからみんな壊しちゃったんだよ」

「壊しちゃったって・・・これ、全部あなたがやったってことなの?」

 サキの問いに少年は答えず、そのまままたそっぽを向いてしまった。

 少年はそっぽを向いたまま退屈そうに座っているだけだった。サキがしばらくその様子をじっと見つめてると、少年はおもむろに顔を上げ、再びサキに視線を戻した。

「まあ、お姉さんでもいいや。試してみる?」

「え?試すって、何を?」

 サキの問いに少年が微かに笑みを浮かべた。

「強いかどうか」

 そう言うと、少年はふわりと台座から降りてきた。まるで、空中を浮いているような気がしたが、サキは錯覚だろうと目をこすって少年を見た。少年はほこりを払うような仕草を見せ、その後サキの目をじっと見つめた。

 すると突然少年が腕を振り上げた。それとともに、サキに向かって地面に亀裂が走った。サキは驚いて転がるように襲いかかる亀裂を避けた。

「ちょ!ちょっと!何するのよ!」

 サキはすぐに立ち上がりそう叫んだ。少年は微かに笑みを浮かべていた。

「お姉さん、やるね。今の避けられるの今までも10中1人くらいしかいなかったよ」

「君、一体何者なの!?突然何なのよ!?」

「ん?強いやつを探さなくちゃいけないからさ。だから、こうして探してるんだよ」

「何のために?」

 サキは次の攻撃を警戒して腰の剣を抜いた。

「うーん、忘れた」

 再び少年が腕を振り下ろす。先ほどより速度を上げて、見えない閃光がサキを襲った。サキは逃げる間を失い、持っていた剣で襲いかかる閃光を切り払った。

 かまいたちのように、細かな閃光がサキの足や腕の服を引きちぎった。

「お姉さん、すごいね。本当に強いんだ。受け止めた人なんて、初めて見たよ僕」

 サキはやっとの思いで剣を構え直すと、少年を睨み付けた。

「あんた!子供だからって何しても良いってもんじゃないのよ!」

 サキの言葉に少年は再び薄ら笑いを浮かべていた。

「だけど、やっぱりお姉さんじゃだめだな。もっと強くないと」

 そう言うと少年は冷ややかな眼差しでサキを見つめた。サキはその凍るような視線に一瞬だじろいだ。それを察したのか、肩の上にフェレが飛び出し、まるでサキに加勢するかのように鳴き声を上げた。

「フェレ!」

 その瞬間、少年の放つ衝撃波がサキを襲った。サキはフェレを庇うようにその場にうずくまった。剣で受けようとしたが、片手では到底受け流すことができなかった。しかし、少年の放った閃光は、次の瞬間掻き消えるようになくなっていた。

「な、何!?」

 サキの前に立ちはだかるように、ギドの黒いマントが見えた。

「ギド!」

 サキは突然のことに戸惑いながらも笑みを浮かべてそう叫んだ。黒いマントがサキに声に反応して振り向くように揺れた。

 しかし、サキの目に入ったのは、少年よりも更に冷たい刺すような眼差しだった。身の毛のよだつ思いで、サキは凍り付くようにその目を見つめていた。そこにあるのは兄の顔だった。兄の顔を持った、悪魔だ。

「ナ、ナイジェル!?」

 サキは驚いて後ずさるようにその場から飛び退いた。ナイジェルは、気にしてないかのように再び少年に視線を戻した。

「ファイだな」

 ナイジェルは少年に言った。少年も不思議そうな眼差しで、ナイジェルを見ている。

「あなたは誰?どうして僕の名を知ってるの?」

「知る必要はない。どうせ、お前はここで消えるんだ」

 ナイジェルは言い、少年に襲いかかった。彼の持つ巨大な漆黒の剣が、空気と共に少年を切り裂いた。少年は避ける間もなくその場から吹き飛ばされていた。

 しかし、よく見ると少年は手のひらでナイジェルの一撃を受け止めていたかのように両手を前に掲げ、そのまま立っていた。サキは呆気にとられてその様子をただじっと見つめていた。

「あなたは何者なの?本当に消えるかと思ったよ」

 少年の表情は変わらないが、そこには先ほどまでとは違う張り詰めた雰囲気が少年を包んでいた。

「この世界は、俺が統べる。だから、お前は不要だ」

 ナイジェルはそう言うと、再び剣を振りかざした。まるで嵐が起こるように、辺り一面にすさまじい風が巻き起こった。

「なるほど・・・あなたは」

 少年はすさまじい風に飛ばされそうになりながら、そう呟いた。サキは、すでに自分の身体を支えられなくなり、地面をずるずると風に押されて吹き飛ばされそうになっていた。

「ちょっ!ちょっと!何なのよ、これ!」

 サキは慌ててそう叫んでいたが、急に身体が止まった。顔を上げると、少年がサキの身体を抱えるように側に寄り添っていた。

「何?君?助けてくれるの?」

「あの人には勝てない。僕は逃げる。ついでだから、あなたも連れて行ってあげる」

「あ、ありがとう」

 サキは良く分からなかったが、とりあえず少年の言うようにここは逃げた方が賢明なように思えた。あのナイジェルとまともにやり合っていては、身体がいくつあっても足りない。

 次の瞬間、サキの身体は宙に浮いていた。少年は軽々とサキを脇に抱え空に飛び上がった。

「いくよ」

 少年が言うと、何を見ているのか分からないほどのスピードで空を移動し始めた。身体が引き裂かれそうになるほどの重力を身体全体に感じた。

「え!なに?どうなってるの?」

 サキはそう叫びながらも、吹き抜ける突風に目を開けることすらできず、とりあえず必死に耐えることしかできなかった。

 どこかに辿り着いたのか、身体が止まったことを確認すると、ようやく息をつきその場に尻もちを付いて座った。顔を上げると、少年がまた上を見上げて立っていた。

「良く分からないけど助かったわ、ありがとう・・・。君、ファイって言うの?」

 サキは少年を見上げてそう言った。少年は無関心な顔でサキの言葉を聞いてないかのように上を見上げていた。

「あいつはナイジェルよ。前にも一回あったことがあるの。でも君、強いやつを待ってるんじゃなかったの?あいつは底なしに強いわよ」

「ナイジェル?」

 ファイはサキの言葉に反応してそう答えた。

「ナイジェルって言うのが誰なのか知らないけどさ、あれはナイジェルなんかじゃないよ。まあ、お姉さんがあいつをどう呼ぼうと勝手だけど」

「え?じゃあ誰なの?」

「アルダリスさ」

「え?」

「来た!」

 ファイは突然そう叫ぶと、身体を守るように両腕を組んで顔を覆った。それとともに、すさまじい衝撃がファイを中心に広がった。サキはその勢いで森の中に転がり込んでしまった。

 次の瞬間、ファイはまた空中高く飛び上がっていた。上の方で、ファイがナイジェルの剣を受けて吹き飛ばされるのが見えた。サキは起き上がり、その様子を目で追うように見つめていた。

「ファイ!」

 サキがそう叫んだ瞬間、まぶしい光が辺りを満たしサキの視界を奪った。サキは目を凝らしながら、光の中にファイの影を探した。しかし、そこにはもうファイの姿もナイジェルの姿もなかった。

 

 空が光っていた。サクラは、その光を追って部屋の外に出た。

 光はシュールの街を遮るように、森の方へと消えていった。

 サクラは辺りを見渡し誰かいないか確認した。見たところ、人姿は見あたらなかった。もっとも、最近は人影を見ることも少なかった。最近はシュールに住む人も少しずつ減っている気がする。それが何故なのか、サクラはなるべく考えないようにしていた。

 とりあえず誰もいないことを確認すると、サクラは森に向かって歩き出した。

 サクラは森の中を警戒しながら進んだ。最近になって、このシュールの周辺にも無差別に人を襲う参加者達が多発していると聞いていた。参加者だけでなく、モーヴ達も人を襲い始めたという噂も聞いた。モーヴが実体化して人を襲い始めている。マサハルもそんなことを言っていたような気がする。

 今のサクラに頼れる仲間はいない。カケルもいないし、マル太やリンドウ、ミイも、もう側にはいないのだ。マサハルはできる限りサクラの側にいてくれた。しかし、いつしかサクラの方からマサハルを敬遠するようになっていた。マサハルはそれについて深く問いただそうとはしなかった。サクラがそう言う雰囲気を表しだすと、自ら遠ざかるようにサクラから距離を取るようになっていた。

 サクラは光が消えた辺りに辿り着くと、なるべく音を立てないように慎重に動き回りながら、周辺を歩き回ってみた。

 あの時、光の中に少年の姿を見たのだ。見間違いでなかったとしたら、少年は果たして生きているのだろうか。そう思うと、いたたまれず少年の姿を探し回った。

 そして、サクラは森が開けた場所に倒れている少年を見つけた。灰色の服を纏った少年は、気を失っているのか微動だにせず森に横たわっていた。

 サクラが近づいて確認すると、少年は酷く怪我をしているのに気がついた。腕や足にあざを作り、白くて美しくあどけないその顔にも、無数の傷があった。

「サクラ、一人で外に出ちゃ駄目じゃないか」

 いつの間にかにマサハルがサクラの後ろに立ってそう言った。サクラは一瞬驚いてマサハルの顔を見つめていたが、すぐに顔を伏せ「ごめんなさい」と呟くように言った。

 マサハルは遠慮がちにサクラに歩み寄り、並んで少年を見つめていた。

 ――また、血の匂いがする・・・。

 サクラはマサハルがいつも何をしてくるのか聞いたことはなかった。たぶん聞かれることをマサハルは望んでいないし、たぶん知ることも自分は望んでいないように思えた。ただ、微かに香る血の匂いが、サクラを気持ちを重くした。

「この子は?」

 マサハルはサクラの顔を見ると、そう尋ねてきた。

「わからないけど、たぶん空を飛んできたの」

「空を?」

 マサハルは不思議そうにサクラの顔を見てから少年に視線を移し、しばらく少年を見つめていた。

「とにかく、連れて帰ろう。このままじゃ、凍え死んでしまう」

 マサハルはそう言って少年を持ち上げた。サクラは何となくほっとした。もしかしたら、マサハルは少年を放ってそのまま帰ってしまうのではないかと思ったのだ。最近のマサハルは、ときどき酷く冷たく見えることがある。

「ありがとう」

 サクラはそう礼を告げると、マサハルに抱かれた少年の頬に手を当て微笑んで見せた。

 

 サキがギドたちの元にようやく帰り着いたときには、サキが出発してからすでに1週間近くがたっていた。帰ってきた泥まみれのサキを見て、リナは嬉しそうに抱きついてきた。

 サキは持ち帰った薬をさっそくギドたちに与えた。ギドたちの様態は、サキが出発した頃に比べて明らかに悪くなっているようだった。サキが心配したとおり、二人とも傷口が化膿し酷い高熱に毎晩うなされていたとのことだった。

 しかし薬を与えてから、ギドとルウの回復ぶりは目を見張るものだった。薬を与えた次の日には熱も収まり、化膿した傷口も随分と良くなっているように見えた。自分のしてきたことは無駄ではなかったと思うと、サキはとても嬉しかった。

 ギドたちが普通に会話できるまで回復すると、サキは改めてブルシェアの有様を説明した。リナは黙ってそれを聞いていた。サキは話を終えると、肩に乗ったフェレに餌を与えながら、ギドたちの言葉を待った。

「どうなんだ?そんな状況でも、俺たちはブルシェアに行く必要はあるのか?」

 ギドの問いに、リナは黙っていた。

「そろそろちゃんと話してくれても良いんじゃないですか?僕たちのことを、もっと信頼してください」

 ルウの言葉に、リナは顔を上げ三人に微笑みかけるようにそれに答えた。

「そうですね。わたしはあなたたちを試していたのかも知れません。でも、それでは駄目ですよね」

「そう、わたしたちは仲間だもん。そうでしょ、リナ?」

 サキがそう言うと、ギドとルウの方が不思議そうにサキを見た。そんな二人を見て、サキとリナは顔を見合わせて笑った。

「わたしの目的は、アルダリスシステムの暴走を食い止めること・・・それは覚えていますか?」

「ああ、覚えてる」

 ギドが頷いて答えた。

「アルダリスシステムは成長型システムです。自ら学習し判断し成長する。しかし、それを実現するには一つのマスターだけでは学習能力の限界があったのです。それに、アルダリスシステムのマスターには致命的な欠陥がありました」

「致命的な欠陥?」

「判断する上で必要な、人としての感情です。判断基準をすべて法則に求めるのは無理があります。そして、あともう一つ重要な欠陥は、判断基準が単一であったと言うことです。つまり、マスターが判断したら、それを反対する存在がない。これは、判断基準の偏狭を生み出してしまいます。そこで、生まれたのがわたしたちブレインです」

「ブレイン?君がか?」

 ルウは驚いたようにそう尋ねた。サキも良く意味は分からなかったが、リナが自分とは違うのだということだけは朧気に分かった。

「ええ、わたし達はマスターを抑制し効率化されるために生まれました。人と同じ感情システムを持ち、アルダリスシステムが正しい道に進むよう、マスターの成長を手助けするのです」

 ギドは黙って聞いていた。リナは伺うように三人の顔を見ると、そのまま話を続けた。

「ブレインはわたし以外にもあと2つあります。この場合、二人と言った方が良いでしょうか。わたし達は、三人揃ってマスターと対等なのです。しかし、意図的な理由かどうかは不明ですが、わたし達は通信ができなくなってしまった。そして、それに合わせるようにアルダリスシステムの暴走が始まった・・・」

「アルダリスシステムの反乱か」

「それも分かりません。マスターはわたし達のように感情システムを持ちません。従って暴走するということも極めて希有な状況と言えます。むしろ、マスターが自ら暴走することなどあり得ないと言った方が良いでしょう」

「じゃあ、ブレインの一つがマスターを暴走させたか・・・意図的に外部のものがマスターを暴走させたか・・・」

「そうです。その可能性は極めて高いと思われます」

 ルウの言葉にリナは頷いてそう答えた。

「それであんたは他のブレインを探すためにブルシェアに行きたいって訳なんだな。ようやく分かったよ」

 ギドはそう言って肩の力を抜くように壁にもたれ掛かった。

「でも、ブルシェアには何も残されてなかったよ。あるのは瓦礫の山だけ」

 サキの言葉にリナの表情が曇った。

「本当に誰もいませんでしたか?」

 リナがサキの目を見つめそう尋ねてきた。

「いや、そう言えば『ファイ』って言う少年が一人・・・」

「それがブレインです!」

 リナの顔が明るくなり、サキにそう答えた。

「え!?あの子がブレイン!?」

「で、ファイはどうしたんですか?」

 リナは急かすようにサキにそう尋ねた。

「それが・・・」

 サキは返答に詰まってしまった。そして、サキはたどたどしい説明でことの成り行きをリナに告げた。

「つまりファイってやつはナイジェルにやられちまったってことか?」

 ギドの言葉にリナの表情が益々曇った。

「そんな事言わないでよ!ファイはきっと生きてるよ!変なやつだけど、わたしを助けてくれたし・・・」

 サキはギドの言葉を否定するようにそう言った。

「しかし、何故ナイジェルがブレインを襲うんだ?」

 ギドが怪訝な顔でそう呟いた。そのとき、サキはファイの言っていた言葉を思い出した。

「そう言えばファイが、ナイジェルのことを、あいつはナイジェルじゃない、アルダリスだって言ってたけど・・・どういう意味なんだろう?」

 そうサキが呟くように言うと、リナは考え込むように顔を伏せた。

「それはつまり・・・」

 リナはそう言いながら顔を上げ、三人の顔を交互に見渡した。

「彼の名はアルダリス。つまり、彼こそがアルダリスシステムのマスターだと言うことです」

 リナの言葉に一同は息を呑んで頷いていた。

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