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PHASE 7 「統べる者/後編」
「ねえ、どうしてリーンに行くの?ナイジェルって誰?」
堅い顔をしながら黙々と歩くギドに、サキがそう尋ねた。しかし、ギドは振り向きもせずに森の中を黙ったまま歩き続けていた。
「まあ、いいけどさ・・・」
サキは諦めたように呟くと、思い立ったようにそばを歩いていたリナに近寄り声を掛けた。
「ねえ、あなた。いくつなの?」
「15歳です」
リナは小声でそう答えた。
「ええ!?まだ子供じゃない!」
サキは大袈裟に大声を上げてそう叫んだ。そして意味深な表情でギドに駆け寄り、ギドの顔を覗き込むようにして言った。
「15歳だって。まだ、子供じゃない。本当に一緒に連れていくの?」
「お前だってまだ17歳だろう?そんな変わらないじゃないか」
ギドは煙たがるようにサキにそう言い、進む足を速めた。サキはそんなギドの後ろ姿を見ながら、拗ねるように足元に散らばった枯れ草を蹴り上げて見せた。
ギドはそんなサキの姿には目もくれず、森の木々を縫うように足早に歩いていた。
このリアルな森を歩いていると、ふと自分たちがオフライン・ゲームの施設内にいることを忘れてしまいそうになるのをギドは感じていた。確かに地下施設内にいるということ以外は取り巻く環境はすべて現実なのだから、そう思うのはおかしくないのかも知れない。しかし一方で、ギドはこの世界にある種の違和感も抱いていた。何が原因でそう感じるのかは分からなかったが、目の前にあるもののリアルさが揺らぐ瞬間があるのを、ギドはなんとなく感じていた。
それはやはり、この世界はすべて作り物だからかもしれないとギドは考えた。人間の技術なんてそんなものだ。どんなにリアルに再現しようとしても、それが「リアルではない」と言う事実までは変えられないのだ。どんな物体も、「リアルではない」という事実を突きつけられた瞬間、そのリアルさは失われてしまうのだ。
だからこそ、逆にリアルというものは何よりも力を持つ。ギドは、そう考えていた。
ギドがナイジェルと会ったのは1度だけだった。「会った」という表現は適切ではないかも知れない。ギドは、アルダリス・ネットのゲームの中で彼に会っただけだ。今の仲間たちとパーティーを組む以前の話だ。
アルダリス・ネットの最大の特徴は、4ヶ国間の自由な亡命システムとどの国軍にも属さない「リベリアン」の存在だ。
通常、プレーヤーは領土争奪戦「ウォーリアム」の期間中以外は、国に関係なく他プレーヤーと戦闘することはできない。しかし、リベリアンはどの国にも属さないため、いつでも他プレーヤーを攻撃することができる。
「ナイジェル」という名のリベリアンが無差別なプレーヤー狩りを始めたことは、アルダリス・ネットの中でも密かな噂になっていた。
それが大きな噂になったのも、ナイジェルというプレーヤーの圧倒的な強さにあった。ナイジェルは、過去に対戦闘技で負け無しと謳われ有名なプレーヤーだったのだ。しかし、ある日を境にナイジェルは忽然とアルダリス・ネットから姿を消した。そのこと自体は良くあることだから、別段誰も気にする者はいなかっただろう。しかし、アルダリス・ネット内で神格化されていた「ナイジェル」が、人々からあぶれ者として嫌われるリベリアンとして再び姿を現したことで、様々な憶測とともに、噂は確実に広まっていった。
誰もが「ナイジェル」という亡霊を恐れ、しかし「ナイジェル」に立ち向かうことが最大の勇気と賞賛されていた。
ギドも最初は、根も葉もない噂だろうと思っていた。実際、「ナイジェル」という名のプレーヤーは検索しても見あたらなかったし、彼と出会ったことがあるというプレーヤーもいなかった。
しかし、ギドはナイジェルに出会ったのだ。
その強さは圧倒的だった。そして、仲間はすべて彼の手により抹消された。まさに、データごと抹消されたのだ。ある種のウイルスプログラムだったのかも知れない。ギドは殺された仲間のデータが抹消されてしまっていることに気がつき、ナイジェルに最後の一撃を食らう瞬間にネットワークケーブルを咄嗟に抜き取り強制プラグアウトしたのだ。そうして、ギドはたった一人生き延びた。
あの屈辱は今でも忘れはしない。
ギドはその後、アルダリス・ネットの中をナイジェルを探し回った。しかし、彼を見つけ出すことは結局できなかった。
そのナイジェルが、このオフライン・ゲームに参加していると言うのだ。
ギドは握り拳に力を入るのを意識しながらも、黙々と森の中を歩いていた。
翔は、マサハルとミイとは別々にチームを組み、街の警護にあたることになった。
富野間の指示はいたって明確なものだった。街に入ろうとするものは、まず武器の放棄を警告すること。しかし、警告は三回までだ。警告に応じない場合、または許可なく街に入ろうとするものは、躊躇なく攻撃すること。
富野間は、他の参加者たちにも漏れなく役割を与えた。それぞれの役割は、それぞれのレベルによって振り分けられた。レベルの低い者には公共施設の清掃や洗濯などの雑用が与えられた。食堂なども平等配給するため自動システムから人的作業に移行され、これらの調理も主に女性参加者たちに割り当てられた。一方、レベルの高い者には彼らを監視運営する役割が与えられた。
翔たちシティキーパーは、彼らの上流階級として位置付けられていた。
「上に立つ人間がいて始めて社会は成り立つものだ」
富野間はそう彼らに告げた。
「人間は、束縛の上にのみ社会を築くことができる。考えてみろ。『これはしても良い』、『あれもしても良い』、という規則を作ったところで、人間の社会は成り立たない。それは人間の本来持つ理性が利己的だからだ。だから誰かが、『これはしては駄目だ』という規則を作らなければならない。社会とは束縛することから始まるものだ」
それが富野間の言う社会というものだった。それが正しいものかどうかなど、今の翔には判断できなかった。翔たちは、富野間に言われるが儘に街の警護にあたるしかなかった。
それに、翔にはそれよりも気になっていることがあった。ナイジェルのことだ。
翔は一度だけ、アルダリス・ネットの対戦競技場でナイジェルと戦ったことがある。彼は翔に似て、無口な男だった。恐らく、彼と会話したことのあるプレーヤーはいなかったのだろう。そう言った意味で、彼は謎のプレーヤーだった。しかし、そんな彼の性格が災いしてか、彼はプレーヤーの間で神格化されていった。
ナイジェルは、翔が対戦競技場で唯一敗北した相手だ。
ナイジェルは、翔との対戦のあとすぐに対戦競技場から姿を消した。黒の騎士は、そうして対戦競技の伝説の男として祭り上げられた。また、翔も黒の騎士の後継者、「赤の騎士のカケル」として、少なからず対戦競技で名を馳せるようになっていった。
翔は「赤の騎士のカケル」が、いつの間にかに一人歩きしていくことに不安を覚えるようになっていた。自分が自分でなくなっていくような不快感。自分という存在が、巨大な虚像と化していく恐怖。そして翔も、ナイジェルと同じ道を歩むように、対戦競技場から姿を消した。
そのとき、翔は少なからずナイジェルというプレーヤーに親しみを感じていた。彼と共有できるものがあるような気がした。
その後、翔は再びナイジェルに出会うことはなかった。しかし、ナイジェルの名が記憶の闇に埋もれつつある頃、再びナイジェルの名がアルダリス・ネットの中で囁かれ始めた。
それは、ナイジェルがリベリアンとなり無差別なプレーヤー狩りを始めたという噂だった。
翔にとって、その噂は寝耳に水の話だった。信じたくない、と言った方があっているかも知れない。彼は、戦いでも常に正々堂々としたプレーヤーであったはずなのだ。
そのナイジェルが、このオフライン・ゲームに参加していると言う。しかも、参加者たちを先導しグランドキーパーたちを襲い、さらにアルダリス・ネットさながらにプレーヤー狩りを始めたと言うのだ。翔には、にわかに信じられない噂だった。
「ねえ、カケルくん」
仕事を終え考え込むように路地にぼうっとして立っていた翔に、ミイが遠慮がちにそう声を掛けてきた。翔は我に返り、ミイに顔を向けた。
「ミイ。シティキーパーの仕事、もう慣れたかい?」
「うん・・・まあ・・・」
ミイは浮かない顔でそう答えた。確か、ミイは有紀とメンバーを組んで仕事をしているはずだった。彼女となら、きっと安心して仕事ができるだろうと、翔もほっとしていたところだ。
「ちょっと相談があるんだけど・・・」
「何?相談て」
ミイは顔を伏せると、考え込むように黙ってしまった。
翔はしばらく彼女が何かを言うのを待っていると、場を見計らったように有紀が翔たちの元に歩いてくる姿が遠くに見えた。
「ううん、やっぱり何でもない。ごめんね。それより佐伯さんのことなんだけど・・・やっぱり有紀さんに言った方が良いじゃないかな・・・」
ミイは有紀の姿に気がつくと首を振りながら、周りを気にするように小声でそう翔に言った
「うん・・・」
翔は曖昧にそう頷いた。それは翔も考えていたが、正直言うべきかどうか迷っていた。
「有紀さんには、俺が言うよ。知らない方が良いなんてことはない。どんな事実であっても」
翔はそう言い、有紀が来るのを待った。
「カケルくん、ちょっといい?」
「はい」
「ミイさん、ちょっとだけカケルくんを借りるわね」
有紀はそう言って、翔を促すように歩き出した。翔も有紀のあとを追うように歩き始めた。
「あれから何か変わったことあった?」
有紀はしばらく歩き続け、まわりに他の人間の気配がない路地までたどり着くと、歩きながら翔にそう尋ねた。
「何もありません」
翔は何故そんな事を尋ねるのか不思議に思いながらも、そう答えた。
「何か変化を感じない?」
有紀は歩きながら翔の顔を見つめてそう言った。翔は訳も分からず首を振って見せた。
「そうか、あなたはあの事故が起こる前のこの街を見てないものね」
有紀はそう言うと顔を前に戻し、黙ってそのまま歩き続けた。
しばらく歩いた二人は、ある建物の前に辿り着くと有紀はその中に入るように翔に促した。翔は言われるが儘に、その扉を開け中に入った。
中にはいると、そこは街の中央ひろばの教会とまったく同じ部屋が広がっていた。
「わたしね、あの事故があってから不思議に思ってることがあるの」
「何ですか?」
翔は部屋の内部があの教会とほとんど違いないことに驚きながら、有紀にそう尋ねた。
「雰囲気が違うのよ、街の。なんて言うか・・・あの事故が起こる前は、この街はもっと無機質な感じがしたの。まさに作り物みたいな・・・それは当然よね。この施設はすべてが作り物ですもの」
有紀はゆっくりと近くの椅子に腰掛けると、話を続けた。
「でもあの事故が起こってから、街が少しずつ変わっている気がするの。少しずつ・・・人の目にはわからないくらい微妙に、この街は変化している。リアルに・・・作り物だった街が、徐々にリアルになっている気がするの」
「それは物質的に変化しているって言う意味ですか?」
「わからないわ」
有紀はそう言い一息つくと、じっと翔の顔を見つめ、それから視線を逸らししばらく考えるように顔を伏せていた。
「ヒューマンエリア・ネットワークって知ってる?」
有紀は顔を上げると、再びそう翔に尋ねてきた。翔は首を横に振って答えた。
「人体を媒体として情報の通信を行う技術よ。『RedTacton 』に代表される新しいユビキタス技術よ」
「ああ、聞いたことはあります。それがどうしたんですか?」
「正直言うとね、わたしはスパイとしてことのオフライン・ゲームに参加したのよ。まあ、そんな大袈裟な話じゃないけど、会社からの命令でね。市場調査みたいなものよ。アルダリスシステムには、最新のヒューマンエリアネットワーク技術が導入されるっていう噂があったから・・・業界では色々と黒い噂も上がってたのよ」
「それが、グランドキーパーユニットの能力と何か関係があるんですか?」
「まだそこまではわからないわ。でも、アルダリスシステムは、本来そこにないものを、わたしたちに見せることができる。技術的なことはもっと調査してみないとわからないけど、アルダリスシステムが今までにない画期的なものであることは間違いないわ」
「僕らは仮想の世界をあたかも現実として見せられているってことですか?」
「そこまで単純な話ではないわ。わたしたちにとっては、目の前にあるものは紛れもない『現実』なの。わたしたちにとっては、それは現実以外の何物でもない」
「仮想を現実にしてしまうシステム・・・それがアルダリスシステムってことですか?」
翔は思い返すように頷いた。確かに、モーヴと戦ったときも3D映像とは思えない迫力だった。斬りつけたときの手応えも、気のせいと言うにはリアルすぎた気がした。
「ただ言えるのは、わたしたちが見て体感したことは紛れもない現実であると言うこと。それは仮想現実なんかではない。この世界は現実よ。少なくとも、ここにいるわたしたちにとっては。今、リアリティを増し続けている・・・あなたのその力も、リアリティを増し続けているのよ」
翔は唾を飲み込んだ。
「信じられないわよね。わたしだって、そんな技術が実現可能なんて信じられないわ。でもね・・・」
有紀はそう言うと、人の気配を感じ入った来た扉に目をやった。翔と有紀は、ゆっくりと開く扉をじっと凝視していた。
「二人ともここで何やってるんだ。ちゃんと仕事をしないヤツは減点対象だぞ」
扉の前には、そう言う富野間の姿あった。その姿の後ろには、あのひろばの風景が広がっていた。
確かに、先ほど入ってきたときにはあの扉の向こうは人気のない裏路地だったはずだ。翔は、呆然と扉の外の風景を見つめるしかなかった。
「あなたに手伝ってもらいたいことがあるのよ」
「・・・何ですか?」
翔は我に返り、有紀の方を振り向いて言った。
「アルダリスシステムにハッキングを仕掛けるの」
「サキ!」
ギドはリナを守るように腕の中に抱え込み、巨大なカマを振り回しながらそう叫んだ。
サキは間髪入れずに素早く寄せ集まってきたモーヴの群衆に走り込み、切り刻んでいく。サキの攻撃でよろけたところを、ルウが召還した炎の精霊が一気に焼き払う。
ギドたちがリーンの街に足を踏み入れたときは、人の気配もなくまるで死の街さながら風景が続いていた。ギドたちは、警戒しながらもリーンの街中を進んだ。そして、街のほぼ中心に来たとき対戦競技場らしき施設を発見した。
競技場は、ギドの見る限りアルダリス・ネットそのままの状態で再現されていた。ギドは誘われるようにその中に入った。
競技場の中にも、やはり人の気配は全くなかった。確かに人の気配はなかったのだ。しかし、気付いたときにはすでにモーヴの軍勢に囲まれてしまっていた。
「これじゃ埒が明かないよ!」
サキが肩で息をしながらそう叫んで、ギドに走り寄ってきた。
「どうすんの?」
サキが叫んだ瞬間、大きな翼を広げたガーゴイルが飛びかかってきた。サキは寸前のところでそれを避けたが、モーヴの鋭い爪がサキの鎧をかすめ、鎧の一部が引き裂かれるように欠けた。
「サキ、大丈夫ですか!?」
ルウが驚いてサキの元に駆け寄った。
「これってどういうこと?こいつら・・・3D映像じゃないわ!本物!?」
「くそ!お前たちは後ろに下がってろ!」
ギドはそう言うと、目を瞑り口ずさむように呪文を唱え始めた。
「サキ!早く!」
ルウが叫んでサキとリナを競技場の影に誘導した。ルウたちは、柱の影から一人残されたギドの姿をじと見つめていた。競技場の中心で、ギドは目を瞑ったまま呪文を唱え続けている。初めは警戒していたモーヴたちも、ギドが動かないことを察すると、一斉にギド目掛けて走り寄ってきた。
「ギドォ!」
サキが思わず叫んだ。次の瞬間、ギドを中心にまばゆい光がほとばしり、モーヴたちは次々と吹き飛ばされていた。光が収まると、モーヴの姿はすべて掻き消えていた。
「モーヴが実体化してる・・・それは確かなようですね」
ルウが消え去ったモーヴたちを遠目に見ながら、サキにそう言った。
サキはにわかに信じられないような面持ちで、首を振って見せた。
「ギド!だいじょ・・・」
「来るな!」
サキが走り寄ろうとすると、ギドが再び大きな声で叫んだ。ギドの視線は、砂埃にまみれた競技場の中央に向けられていた。
「お前がナイジェルか」
ギドは競技場の真ん中に立ちまっすぐ正面を睨み付けながらそう言った。
サキは柱の影から出て、あたりを見まわしたが、やはり人の気配はなかった。しかし、目を凝らしてよく見ると、ギドの視線の先に黒い鎧を着込んだ男が一人、大きな椅子に座っているのに気がついた。
「あれがナイジェル・・・?」
気配もなければ、殺気もなかった。ただ、微動だにせずじっと椅子に座ったままだった。人形ではないことはわかる。しかし、そこにはリアルさが欠けていた。ちょっと目をそらせば、次の瞬間には消えてしまいそうな、サキはそんな気がしてならなかった。
ギドは、ゆっくりとナイジェルに向かって歩いていった。ナイジェルらしき男は、やはり椅子に座ったまま動こうとしない。
「お前がナイジェルか」
ギドは、男の前に辿り着くと立ち止まり再びそう尋ねた。ギドの問いに答えるかのように、微かに男の瞳が動いた。
サキは悪い予感がして、叫びながらその場を走り出していた。
一瞬だった。男の方が微妙に動いたかと思うと、すでに漆黒の剣がギドの脇腹を捉えようとしていた。しかし、ギドもそれを持っていた大カマで受け止めていた。
ギドは即座に飛び去るように後ずさりながら、ナイジェルに向けてカマを一直線に走らせた。ナイジェルの座っていた椅子が二つに裂かれたが、そこにはすでにナイジェルの姿はなかった。
「この世界はわたしのものだ。腐敗した世界はこのわたしが統べる」
ナイジェルはいつの間にか崩れた瓦礫の上に立っていた。
「なら俺がお前を倒してこの世界を統べてやる」
ギドはそう吐き捨てると、再び持っていた大カマを振り下ろすように投げつけた。それと同時に呪文を唱えて、カマをよけて後ずさったナイジェル目掛けて光の矢を放った。しかし、ナイジェルはその矢をいとも簡単に剣でなぎ払った。
ナイジェルは間髪入れずにそのままギドに斬りかかってきた。しかし、ギドの手には瞬時に黒い剣が現れ、ナイジェルの剣を受け止めていた。
ギドが片手を点にかざすと、次の瞬間、数百という光の矢がギドとナイジェルを取り囲む様に降り注いだ。ギドとナイジェルの姿が光に包まれ、一瞬二人の姿見えなくなった。
サキはリナの隣で呆気にとられた様子でじっと二人の攻防を見つめていた。光が徐々に薄らいでいく。しかしそこにはギドの姿もナイジェルの姿もすでになかった。リナが咄嗟に別の方向に顔を向ける。サキもつられるようにその方向に目を向けると、剣をナイジェルに突き刺すギドの姿が見て取れた。
確かにギドの剣はナイジェルの脇腹を捉えていた。
ギドはナイジェルに刺さった剣をそのまま残して後ろに飛び退いた。再び呪文の体制に入ると、身体全体を光が包み込み始めた。ギドの身体は光の中に徐々に同化していく。光は少しずつ黒く変化し、光と闇が逆になったように白い光の中から黒い閃光が飛び散る。閃光は見る見るうちに巨大化し、数十メートルの黒い閃光の柱となっていた。
「終わりだ、ナイジェル!」
ギドを取り巻く黒い閃光は、身動きとれずに立ち往生するナイジェルの身体を一直線に捉えた。
再び二人の姿が目映い光の中に消える。サキはじっと光の先を見つめていた。徐々に光が薄らぐと、ナイジェルの姿を探した。しかし、そこにはナイジェルの姿はなかった。
サキは笑みを浮かべギドの方を見た。しかし、その笑みは一瞬にして消え去っていた。サキは思わず悲鳴を上げていた。
ギドの前にはルウが立ちふさがり、腕でナイジェルの剣を受け止めていた。その腕からは、確かに鮮やかな血が流れ出ていた。サキの脳裏には、エレベータの残骸の中から流れ出てきた佐伯の血の映像が映し出されていた。
「ルウ!」
ギドが驚いた顔でそう叫ぶ。ギドは崩れ落ちるルウを咄嗟に抱きかかえた。
「やはりお前ではないな。世界はわたしが統べる」
ナイジェルはそう呟き、容赦なくギドの上に剣を振り下ろした。
「ギドォォォォ!」
サキは咄嗟にギドに駆け寄ろうとした。スピードには自信があったのだ。スピードだけなら、ギドやルウにも負けない。間に合う距離ではないのは分かっていた。それでもサキは、剣を抜き走った。サキは、無我夢中でギドとルウの前に身を投げ出すようにして飛び込んだ。間に合ったかどうかよく分からなかったが、ナイジェルの剣をまともに受ける感覚があった。手にしびれが走り、身体が宙に浮いたような気がした。
風のように駆け抜ける視界の中で、ギドの悲痛に歪む顔が一瞬見えたような気がした。
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