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PHASE 5 「守るための力」  

 教会の前には人だかりができていた。教会入り口の階段の上には、富野間の姿が見える。翔は、ミイと一緒にその姿を人だかりの隅から静かに眺めていた。

「わたしはグランドキーパーの富野間だ」

 富野間の良く響く声が周りの建物に反響して木霊する。教会の前に集まった参加者たちは、一斉に静まりかえった。富野間の声には、人を惹きつける独特の存在感があった。

「最初に断っておくが、わたしたちグランドキーパーは、この『オフライン・ゲーム』会場の警備を担当している管理者側の人間だ。その権限に基づき、参加者全員には我々の指示に従ってもらう義務があることを忘れないで欲しい」

 富野間が集まった者たちを見渡すように眺める。参加者たちは、困惑の顔を浮かべながらも、黙って富野間の言葉を待っているようだった。富野間は満足するように頷き、話を続けた。

「まず現状を説明しておく。我々は、現在この地下施設内に監禁された状態にある。我々が知る限りの脱出経路を確認してみたところ、すべての出口は封鎖された状態になっていた。また、我々は外との連絡手段も持たない。従って、昨日の惨事の原因も不明だし、我々がいつここから出られるのかも不明だ。

しかし何が起こっているのか分からない以上、今は闇雲に出口を探しても埒は明かないだろう。それよりも、現在は落ち着いて救助を待つ方が最善であると我々は判断した。

我々グランドキーパーはこの状況を平穏かつ合理的に対処するために、いくつかの規則を設けることにした」

 富野間はそう言い一呼吸置くと、例の用紙を取り出し読み始めた。階段下から厳しい目つきで富野間を見つめる有紀の姿が見えた。

 参加者たちの間でざわめきが広がる。

「カケル!」

 人混みを掻き分けてマサハルが駆け寄ってきた。

「どこ行ってたんだ?探したんだぞ」

 マサハルは翔の前に辿り着くと、息を切らせながらそう言った。

「佐伯さんのところに。マサハル、あまり昨夜は眠れてなかっただろ?黙って行くのは悪いとは思ったけど、よく寝てたからさ。起こしちゃ悪いと思って・・・」

「そうか・・・それよりこれは?聞いたか、今の?」

 マサハルはそう言って階段上に立つ富野間に目を向けた。

「ああ。彼は彼なりの考えがあってのことだと思うよ」

 翔はそう答えた。しかし、その眼差しは厳しく富野間を捕らえていた。

「1日だ」

 富野間の響く声がまた木霊した。

「もしこの規則を受け入れられないと言うならば、自由にこの街を出て行ってくれ。ただし、明日のこの時間、この街は完全に閉鎖する。それ以降は、この街からの外出も市街地外からの侵入も一切受け付けない。1日・・・ゆっくり考えてくれればいい。この街に残るか、出て行くか。わたしの考えに賛同するもだけ、この街に残ってくれればいい。残る者は、明日この時間にここに集まってくれ。以上だ」

 富野間がそう言い終えたあと、参加者たちも一斉にざわめき始めた。参加者たちは、自分の仲間たちと口々に意見を交わしている。参加者たちの間を縫うようにして、富野間の演説を他の場所で聞いていたリンドウ、マル太、サクラの三人が、足早に翔たちのもとに駆け寄ってきた。

「また偉いことになったな」

 リンドウは、そう言って苦笑いを浮かべていた。

「ちょっとやり過ぎな気がしないか?あんな風に、頭ごなしに人を押しつけるようなやり方には賛成できないな、俺は」

 マサハルがそう答えた。

「でも、今は緊急事態なんだから・・・。彼に従った方が良いじゃないのかな?」

 マル太が小声でそう反論した。

「わたしも、意見が合わない人は街を出ろっていうのは横暴だと思うわ。言っていることはわかるけど、それで本当に良いのかしら・・・」

 ミイがそう言って翔の方を見た。翔は、何と言って返せばよいか分からず、ミイから視線を逸らし、サクラの顔を見た。

 サクラはじっと富野間の姿を見つめているようだった。富野間は階段の上で、表情一つ変えずざわめく参加者たちを見下ろしていた。

「この街で息苦しい思いをするんだったら、他の街に行くのも手かもな。きっと、どの街もここと似たり寄ったりだろ」

 リンドウが、笑いながらそう言った。

「カケルはどう思う?」

 マサハルもそれに頷き、翔にそう尋ねた。

「・・・分からない」

 翔の脳裏には、この街の穏やかな風景と佐伯の亡骸とが交互に映し出されていた。何事もなかったかのように笑いながら食事を取る参加者の姿も現実だが、その一方で無惨な姿をさらけ出した佐伯の姿も現実なのだ。どれが本当の姿なのか、翔には判断できずにいた。サクラのあの悲しい目には、どちらが映っているのだろうか・・・翔は上の空でそんなことを考えていた。

「わかった。こういうことは、やっぱり個人で決めるべきだ。明日のこの時間、この街に残る者はこの場所に、街を出る者は街門の前に集まることにしよう」

 マサハルがそう言った。ミイやマル太の表情には不安の色が浮かんでいたが、反論しようとする気配はなかった。

「分かった。そうしよう」

 翔はそう言って頷いた。

 

 翔たちは、マサハルの「じゃあ、明日」という声を合図にそれぞれが散らばっていった。翔も、ミイやマル太の視線を気にしながらも、マサハルに習い足早にそこを立ち去った。

 マサハルの言うことも一理ある、と翔は考えていた。こういうことは、個人で決めるべき問題なのかも知れない。翔にもそう思えた。仲間というのは、決して馴れ合いであってはいけないのだ。それぞれにはそれぞれの道があり、それが一致したときに仲間になるものなのだと翔は思った。

 では、自分はどちらの道を選ぶべきなのだろうか。富野間が自分にグランドキーパーユニットを任せたのは、一体どんな意味があるのだろうか。自分は、一体何をすべきなのだろうか。考えても、答えは容易には出てこなかった。

 翔は考えがまとまらないまま、ひとり教会の礼拝堂の中で夜を過ごしていた。色々なことがありすぎて、疲れているのかも知れないと翔は思った。

「ねえ、カケルくん」

 気がつくと、そこにはサクラが立っていた。彼女は逆光を背に翔に歩み寄ると、顔を伏せたまま翔の隣に腰を下ろした。

「カケルくんは・・・どうするつもりなの?」

 そう尋ねるサクラの言葉に、翔は何も答えなかった。どう答えて良いか、まだ翔にも答えは出ていなかったのだ。

「わたしと一緒にこの街を出よう?」

 サクラは顔を伏せたまま、そう呟いた。

「悪い予感がするの。きっと良くないことが起こる」

「まだ・・・どうしたらいいのか良くわからないんだ」

 翔は正直にそう答えた。

 サクラは震えていた。顔が見えなかったが、恐怖に怯え泣いているように見えた。

「わたし怖くて・・・怖くて・・・お願い・・・」

 サクラは唐突にそう呟くと翔の胸にしがみついてきた。驚いた翔は、固まったように胸の中で震えるサクラを上から見つめていた。しかし、震えるサクラを見ているうちに、今にも砕けてしまいそうなサクラが不意に愛おしく思えた。翔がそっとサクラの肩に腕をまわすと、サクラは翔に身を委ねるようにその顔を翔の胸の中に埋めた。

 すると突然、教会の外からガラスが割れるような大きな音が聞こえた。翔は驚いて立ち上がり、教会の外に走り出た。

 また叩きつけるような鈍い音が、教会前のひろばに鳴り響いた。その音は、富野間の小屋から聞こえてきていた。

 翔はすぐに富野間の小屋に駆け寄ると、ドアを開けて中を覗き込んだ。電気は消えていて中はよく見えなかった。翔に続いて、サクラも恐る恐る小屋の中を覗き込んだ。

「ねえ、さっきの音は何?」

 そう呟くサクラを横目に、翔はゆっくりと小屋の中に足を踏み入れた。サクラも震えながらも、翔にぴったりと寄り添い後に続く。翔は暗闇の中をじっと目を凝らして見まわした。

 暗闇の中に二つの影がうごめいているのが見えた。鈍い音が響き、影の内の一つがうめき声を上げて崩れおちた。

「富野間さん!」

 翔が叫ぶと、他の場所から違う影がいきなり翔に向かって突進してきた。翔は咄嗟にサクラを庇うように身をかがめると、剣の鞘で影が振り落とす剣をぎりぎりのところで受け止めた。しかし、次の瞬間、背中を蹴り上げられ翔はその場に蹲るように倒れた。

「グランドキーパーだかなんだか知らないがうざいんだよ!」

 闇の中で男が叫ぶ。影は二つに増えていた。翔はサクラを部屋の隅に隠すように退くと、再び一歩前に歩み寄り暗闇に目を凝らした。

 翔の目の前で影が揺れ動いたかと思うと、空を切るように剣が振り下された。翔は咄嗟に鞘を突き上げた。しかし、鈍い音と共に影は突然翔の前から姿を消し、激しく壁に叩きつけられその場に崩れ落ちた。

 扉の前に立っていたもう一つの影は、負け惜しみのような捨て台詞を吐くと、そのまま外へと走り去っていった。

 その影と入れ替わるように、再び扉の前に影が立った。

「何があったの!?」

 有紀の声が響き、小屋の明かりが灯されると、富野間と床に倒れた二人の男の姿が翔の目の前に現れた。

 翔は我に返りサクラの姿を探した。部屋の隅で縮こまるように壁にもたれ掛かるサクラの姿を確認すると、翔は彼女に駆け寄りその震える体をそっと抱き寄せた。しかしサクラのその眼差しは、じっと富野間の姿を捉えていた。

「これが現実だ・・・」

 富野間はそう言って、倒れている男たちに歩み寄ると翔を見て言った。富野間のグランドキーパーユニットが、淡く光っている。恐らく、グランドキーパーユニットを使用したのだろう。突然翔の目の前の影が壁に叩きつけられたのも、富野間がやったことに違いない。

「自分の身を守れるのは、最終的には自分だけだ。甘ったれた考え方は、自分だけでなく大切な人も傷つけることになることを忘れるな」

 翔は見下ろすように立つ富野間を見上げた。その眼差しは、絶対的な自信と威厳に満ちていた。

「ちくしょう!」

 突然叫び声が響き、倒れていたはずの二人が富野間に襲いかかった。しかし、富野間は慌てる様子もなく、突進してくる二人に目を向けると、おもむろにグランドキーパーユニットが光る右腕を差し出し、力を込めるように手のひらを広げ彼らにかかげた。

 すると目を開けていられないほどの閃光が部屋を覆い尽くし、翔は思わず顔を背けた。

 ようやく視力が回復し辺りを見まわした時には、そこに居たはずの二人の姿はすでになかった。まるで掻き消されてしまったかのように、淡い光の残り火だけが、二人のいたはずの空間に漂っていた。

「こんなこと・・・」

 有紀がゆっくりと口を開く。富野間は、表情一つ変えず有紀に目を向けた。

「これじゃ、本当にゲームの世界だわ」

 有紀の言葉に頷きながら、翔はただ呆然としていた。

「こんなことあり得ないわ。いいえ、あり得るとしたら、何も分からないままあんなことをするのは危険だわ。あなたは人を殺したのかも知れないのよ?」

 有紀の顔から困惑の表情はすでに消え去っていた。しかし、そこには悲痛な表情が浮かんでいた。

「力を持つものは、その力を使う義務がある。力は、自己満足するためだけの飾りじゃない」

 富野間はそう言うと、有紀に歩み寄りその肩に手を置いた。

「このことは誰にも言うな。いいな」

 そう言いながら、富野間は威圧するような眼差しで翔にも目を向けた。

「あと、逃げた男を徹底的に洗い出せ。顔は見ただろう?」

 そう告げると、富野間は何事もなかったかのように小屋を出て行った。

「こんなこと・・・」

 有紀は呟くと、悔しそうに下唇を噛みしめた。しかし、すぐに顔を上げると、翔に目を向け言った。

「カケルくん・・・このことは、確かに今は誰にも言わない方がいいわ・・・」

 有紀はそう言うと、頭を抱えるように椅子に腰掛けた。しばらく有紀はその体勢のまま考え込むようにうなだれていたが、おもむろに顔を上げると再び翔とサクラに目を向けた。

「今日はもう戻って寝たほうがいいわ。帰り道は気をつけて・・・サクラさんをちゃんと送ってあげてね」

 有紀の言葉に促されるように、翔は小屋をあとにした。サクラも翔に続くように、隣をゆっくりと歩いてついてきた。

「ねえ、カケルくん・・・」

 黙ったまま歩く翔に、サクラがそう声を掛けた。しかし、翔はその声に気付かず、黙々と歩き続けていた。その手には、富野間から渡された佐伯のグランドキーパーユニットが握られていた。

――大切なものを守るための力。

 翔は富野間の言った言葉を心の中で何度も呟いていた。力はやはり必要なのだろうか。あの時、自分は何もできなかった。自らの剣を抜くことさえできなかったのだ。富野間に助けられていなければ、自分の身を守るどころか、サクラの身も危なかったに違いない。

 どうすれば良いのだろうか?自分にできることはあるのだろうか?

 富野間の言うとおり、力を手にすることは責任を伴う。しかし今の翔には、力を手にすることが正しいことなのかどうかさせわからなかった。ただ、それとは別に言いようのない不安があった。まるで世界が歪んでいくような、いたたまれない不吉な予感が翔の脳裏をよぎっていた。

「サクラさん・・・やっぱり俺はこの街に残るよ」

 翔はサクラにそう告げた。サクラは一瞬驚いた顔を見せたが、深く頷くと、黙ったままひたすら歩き続けていた。

 

 

 翔は教会前のひろばに立っていた。まだ時間には早かったが、すでに数人の参加者が集まっていた。

「おはよう、カケルくん」

「ミイ・・・」

 ミイは笑顔で翔に歩み寄ってきた。

「カケルくんは、残ると思ってたわ。そんな気がしてた・・・」

 ミイはそう言いながらまわりを見まわした。他のメンバーの姿はまだ見えなかった。

「わたし、やっぱり自分でなんか決められなかった。でも、誰かのためにって思うのも、自分のことを思う以上に大切じゃないかって思ったの。だから・・・・カケルくんの答えに従うのも、わたしの意志なんだって思ったの。わたしは・・・あなたの仲間ですもの」

 ミイはまっすぐ翔の目を見つめながらそう言った。

「でも良かった。読みを間違えてたらどうしよかと思っちゃった・・・」

 ミイはそう言いながら、翔に苦笑いをして見せた。

「カケルくん!」

 マル太の声だった。振り向くと、そこにはマル太とサクラが立っていた。

「サクラさん・・・」

「ちゃんと揃ってるな」

 振り返ると、マサハルとリンドウが笑顔で歩み寄ってきた。

「どうだ?俺の勘が当たっただろ?」

 リンドウがそうマサハルに口ずさむのが聞こえた。

「本当に良いのね?」

 いつの間に来たのか、有紀が翔たちのそばに立ってそう言った。

「何が正しいのか、正直俺にもよく分からないけど・・・ここにいても、できることはあるような気がしたんです」

 翔は有紀にそう答えた。それに、有紀は小さく頷いて見せた。

「富野間からの伝言よ。この街に残るなら、是非シティキーパーをやって欲しいって。あなたたちに」

「シティキーパー?」

「ええ、これからは仲間よ」

 そう言って有紀は手を差し出してきた。翔は促されるがままに、有紀と握手を交わした。

 結局、昼前には殆どが教会前のひろばに集まってきていた。富野間の主張が100%受け入れられたのかと言われると、翔にはそうは思えなかったが、参加者たちの気持ちも分かるような気がした。

 結局のところ、参加者たちには行き場がなかっただけだろう。この状況下で少しでも慣れた場所を離れるのは心情的にもはばかれただろうし、何が起こるか分からない場所に移動するより、とりあえず安全なこの街にいた方が良いだろうという雰囲気が参加者たちの間に広まっていた。

 定刻になると、富野間が階段の上に現れた。昨日と同じように、自信に満ちた顔で参加者たちを見まわした。その姿は誰が見ても立派なリーダーの風格を漂わせていた。昨日のことなど、まるで気にしていないような堂々とした素振りで、富野間は集まった参加者たちに話し始めた。

「残った者は規則を受け入れたものと判断させてもらう。全員、所持する武器はこの場に置いていってくれ。シティキーパーに志願するものは、そのままこの場に残るように。シティキーパー以外には、後日それぞれの仕事分担を通達する」

 富野間がそう告げると、少しずつ階段の下に武器を置き、立ち去るものが出始めた。しかし、ほとんど女性だけで、ほとんどの人間はその場に残っていた。

 もっともな反応だった。この街に残るにしても、自分を守る手段を失ってしまうことには不安を覚えるのは当然だった。実質的に街に外に出なければモーヴに襲われることもないだろうが、襲うのはモーヴだけとは限らないのだ。

 街の中にいたとしても、ギルがないと食料も寝床も得ることはできない。外に出てモーヴと戦えない以上、ギルを狙って他の参加者を襲うものが現れても充分考えられることだ。それは、翔も昨夜の出来事で身をもって感じていた。

 結局富野間は、ゲーム上の能力値が高いものから順に10名に絞り込み、シティキーパーを指名した。翔、マサハル、ミイは10名に選ばれたが、結局リンドウ、マル太、サクラは10人から漏れてしまい武器を取り上げられてしまった。

 10名から漏れた参加者たちは、不満の眼差しを富野間に向けながらも、その場を無言のまま立ち去っていった。

「ちゃんと残ったな」

 富野間はそう言いながら翔に声を掛けてきた。

「赤の騎士か」

 富野間はそう言って翔に改めて握手を求めてきた。

「カケルくんのこと知ってるんですか?」

 ミイが不思議そうにそう尋ねた。

「わたしもアルダリス・ネットのユーザーだからね。「赤の騎士のカケル」は聞いたことあるさ」

「へえ、カケル、有名なんですか?」

 マサハルがそう尋ねた。

「ああ、有名だったよ。対戦闘技場で負け無しだってね」

「負けたことはありますよ。それに、そんなのはゲームの話ですよ。実際の俺はそんなタフじゃありません」

 翔はバツが悪そうにそう答えた。

 富野間は「そんなことないさ」と意味ありげに答えた。

「とりあえず、君たちはシティキーパーだ。基本的には我々と同じ仕事をしてもらう。それぞれが与えられた仕事をちゃんとやっているか監視すること、街近辺の警備などだ」

「他の人たちにはどんな仕事を分け与えるんですか?」

「街の清掃や食堂の係員、ランドリー管理、やることは沢山ある。システム化されているとはいえ、壊れたものもあるしな。人手が必要だ」

「富野間さん!」

 グランドキーパーの一人が慌てながら駆け寄ってきた。富野間の耳元で、他の者には聞こえないように何かを呟いていた。

「さっそく問題が起きたみたいだな。選ばれたシティキーパーたちも全員このまま小屋まできてくれ」

 富野間はそう言って小屋の方に歩き出した。

 マサハルとミイは顔を見合わせて、訳も分からぬと言った様子で富野間のあとについて歩き出した。

「カケルくん」

 歩いていると、有紀が小声で話しかけてきた。

「たいした役者ね・・・あれが富野間さんのすごさなんだろうけど・・・」

 有紀は翔と並んで歩きながら、そう耳元で呟く。

「あとで、ちょっといい?話したいことがあるの」

 有紀はそう告げると、足早に富野間の小屋に入っていった。

 小屋にはいると、一人の男が疲れ切ったようにぐったりとして椅子に座っていた。よく見ると、着ている服は破れ、所々に血が滲んでおり、腕も怪我をしているようだった。

「富野間さん、彼です」

「どこから逃げてきた?」

 富野間は、男を覗き込みそう訪ねた。男は、苦しそうに肩で息をしながらもゆっくりと顔を上げて富野間を見上げた。

「リーンからだ」

 男は枯れた声でそう答えた。

「リーンでは何が起こってるんだ?」

 翔や他の者たちは訳が分からずただ成り行きをじっと見守っていた。

「リーンって言うのは、他の街の名前だ。彼はその街から逃げてきたらしいな」

 隣でリンドウがそう言った。翔は何となく違和感を覚えながらリンドウの顔を見ていたが、数秒してからようやくその違和感の正体に気がつき、思わず声を上げそうになった。

「リンドウさん、なんでここに?」

「堅いことを言うな。誰も気がついてないんだから」

 リンドウはそう言って、何食わぬ顔で話をじっと聞いていた。

「暴動が起きたんだ。最初はグランドキーパーたちで事態を収拾しようとしたんだが・・・」

「なんでそんなことに!?」

 マサハルが声を荒げてそう尋ねた。

 男はわからないと言った仕草でマサハルに答えた。

「奴等は、突然俺たちグランドキーパーを標的に襲いかかってきた。とにかく酷かった。あいつらは尋常じゃない。狂ってた」

「それで逃げてきたんだな?」

 富野間が念を押すようにそう尋ねた。

「ああ、はっきり言ってあいつらは人間じゃない。人をいたぶって楽しんでた。あいつらには、ゲームと現実の境なんてないんだ」

 男は鋭い目で富野間を見つめた。

「ナイジェルって奴だ。そいつが先導したらしい。他の奴は、みんな奴のいいなりだった」

「ナイジェル!?」

 シティキーパーの内の一人が思わず叫んだ。その言葉を聞いて、翔は思わず息を呑み込んだ。

「ナイジェルか・・・あの対戦競技最強と言われた?」

 リンドウが翔の隣でそう呟いた。

「黒の騎士『ナイジェル』か・・・あいつなら確かにやりかねないな」

 富野間がそう言って立ち上がった。

「とりあえず警戒する必要があるな。グランドキーパーとシティキーパーは早速街の入り口の警備に当たってくれ。必ず2人以上で行動するんだ。いいな」

「放っておくんですか?」

 マサハルが抗議するように富野間に言った。

「まずは自分の身を守ることを考えろ。それからこの街にいる人間を守ることを考えろ。それ以上は考えなくていい。すべてを守ろうなんて、うぬぼれたことを考えるな」

 富野間はマサハルの目をじっと見つめながらそう言った。マサハルは唇を噛みしめたまま、何も言い返せずに黙って富野間を睨み付けていた。

「これでわかっただろう。秩序を失った人間がどうなるか。この街には秩序がある。そしてその秩序を守るのが俺たちの仕事だ」

 富野間はマサハルから視線を外すと、まわりを見まわすようにそう言った。言い終えた富野間の目は、最後に翔の瞳を捉えていた。

「とんだライバルのお出ましだな」

 富野間は微かに笑みを浮かべて、翔に小声でそう言った。

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